オランダはアムステルダム。
ミレニアム世代が選ぶ”住む価値が高い都市ランキング”で世界No.1に挙げられた街。※ドイツNestpick社調べ
トラムやバスが張り巡らされて便利な交通網、運河や公園によってもたらされる緑は申し分なく、自転車さえあれば、何処へだって行けるコンパクトシティーだ。
特筆すべきは、マルチカルチャーな街であるという点だろう。(良いかどうかは別にして)ドラッグや売春、安楽死が認められ、LGBTに対する理解も先進的な社会制度。約150か国を超える移民の人々が肩を並べて暮している。
さて、そんなオランダはアムステルダムでは2組の"働くと家族シリーズ"を聞くことができた。
家族・子育て・仕事・趣味、それらを全て満足に得たいというのは誰もが願うことだが、そう簡単に実現できることではない。それでもそういう生き方をしたい欲張り系人材の1人として、多様性に満ちたこの街だからこそ、マルチカルチャーなバックグラウンドを持つ2人に「どのようにしてその実現にチャレンジしているのか?」そんな観点でインタビューをしてみた。
1人目はAndrewのストーリーだ。
アメリカ人のAndrewだが、いくつかの会社勤めを経て独立し、今はここアムステルダムにて、主にスタートアップ向けのコンサルティングビジネスを手がける。会社をメインで興している訳ではなく、いわゆるフリーランスではあるが、自身がキャリアとコネクションを積んできたUSをメインに、Web系の案件を取ってくるところから仕事は始まる。
「仕事はリモートが常態。毎回スクラッチでプロジェクトを動かすから、すごく面白いよ。」
案件によって必要な分野のエキスパートリソースを、プロジェクトアサインするわけだ。デザイナーや、エンジニア、領域の異なるプログラマーなどを呼び、プロジェクトマネジメントの立場でいるときもあれば、ハンズオンで事業立ち上げの支援をするときもあり、また第3者的なアドバイザーとしての立ち位置を取ることもある。流行り言葉で言えば、”いつでもどこでも働ける人” ”ABW(Activity Based Working)ができる人“である。なんとも羨ましい。。。
(プロジェクトマネジメントについてSlack(チャット)やTrello(業務プロセス管理)をベースにした、Work formationなどの話も聞いたが、お決まりの話はここでは触れないこととして)
ここはオランダである。オランダ人とアメリカ人でチームを組むこともあるそうだが、どのような違いがあるか聞いてみた。
「USのお客さんが多いので時差があると夜にSlackでやり取りってのも生じるんだけど、オランダ人って夜は働かない。そこは文化の違いを理解する必要があるんだ。」
オランダ人の”働く”に関する考え方は、シンプルにいうと「9時〜18時まで」「家に仕事は持ち込まない」だそうで、仕事が大変でストレスを抱えるなんていうと、Are you kidding? ということもあるのだとか。
この考え方は、この国の社会システムに大きく影響を受ける。まず週5日労働はマイナーで、週4日がメジャーだ。有給休暇は1年に5週間、実態として取得可能。育児休暇も法律で12歳まで取得可能。同一労働同一賃金思想。税金は21%と高めだが、社会保障が充実しているので学費や老後の心配を個人が過度にする必要がない。挙げ始めると枚挙に遑がないが、家族の時間を軸に社会システムが機能している。
だからこそ、優秀な人でも”キャリアが一番大事”という人は少なく、プライオリティはプライベートや家族にある人が多いと彼は言う。これはオランダ人は働かないという意味ではない。”Efficiency(効率)”をとても大切にし、短い時間で高いパフォーマンスを挙げられる人ほど優秀なのだ。
例えばUSはサンフランシスコのGoogleやFacebookは、オフィスをキャンパス化してジム、プール、テニスコート、素敵な社食などを用意する。これはリラクゼーションも含めて”このオフィスで時間を過ごしてください”ということを意味するわけだが、アムステルダムの文化は逆である。オフィスはオフィスで仕事に集中し、家には仕事を持ち込まない。一口にスタートアップと言っても”働き方”に対するカルチャーが全く違うというのは、彼ならではの視点で面白い。
「仕事をしたいときは仕事をする。プライベートに時間を費やしたいときは費やす。それを自分で選べるということは、確かにある意味”自由”かもね。簡単じゃないことだけどね。」
さて、彼がどんなに仕事の上で優秀だとしても、彼には2人の子供達と嫁さんがいる。どのようにして、そのLifeを充実させているのか?
Andrewの嫁さんは人類学者であり、今はアムステルダムで働いている。しかし、アカデミックの業界は厳しい世界だ。仕事の契約も2年単位の場合もあるし、1年単位の場合もあり、来年同じように契約更新ができるかはわからないと言う。
「USに居た頃は6年間も”就職活動”をしていたが、叶わない時期もあった。テキサスとかケンタッキーで教鞭を執るチャンスはもらえたけど、家族が住む場所としては、僕らとしてはちょっとね。。」
当時、テキサスで働く・研究することを選択することが、嫁さんのキャリアアップに繋がる話だったのかどうかは定かではない。ただ、彼らはその選択をしなかったわけだ。子供たちの教育環境という観点で許容範囲を超えていたことや、育ちの西海岸やニューヨークと比べると、ド田舎(テキサスにごめんなさい)で住む話だ。ある意味、奥さんのキャリアよりも家族の住処を優先した時期だったのかもしれない。
Andrewの柔軟な働き方ができる仕事と比較すると、嫁さんは職業柄、硬直的な働き方を求められる仕事である。来年どこで仕事をするか?は嫁さん自身が家族にコミットできないし、それによっては子育てのプランや、彼の仕事の仕方も変わってくるわけだ。互いのキャリアを考えた時に、バラバラに住むという選択肢はあるのだろうか?
「基本的に、家族は一緒にいるようにしているよ。こないだも彼女が仕事でグアテマラに2、3日ショートトリップというケースはあったけど、そういう時以外は。僕はどこでも仕事できるし、今度オレゴンで彼女が仕事することになりそうだから、そうしたら移住だね。」
Andrewの両親は西海岸にいて高齢だ。両親の老後のことや、家族と一緒にいれること、サッカーに夢中な子供たちや、奥さんの仕事、それらを全て鑑みて選択肢を考える。言うまでもなくこれはとても難しいことだ。夫婦間でも数々の話し合いがあっただろうが、何かしらKEYはあるのだろうか?
彼の言葉で言えば、”Equal Responsibility”が大切だという。
互いのキャリア、家族の時間、子供たちが夢中になれること、教育、夫婦の時間、それら全てに対して、フェアな責任を持って考えるということを心がけている。
彼らは、家族にとって何が大切なのか?を言語化している訳ではない。
ただ、何かを選択するときの拠り所となる考え方は互いに、これだよねという風に思えているのだそうだ。
「役割や手段は、考え方に沿ってコトがうまくいくように、互いに不快感のないように決まっていればいいかな。例えば僕はファイナンスができるからお金周りや、好きな運転を。彼女は料理が好きで気分転換になるから、そこは任せるしね。」
人生における様々なテーマに妥協や諦めを持ち込まず、それが自分たちにとって最良のものになるようにチャレンジし続ける。共働き夫婦の場合、特に夫婦間で全くバックグラウンドや構造の異なる仕事をしていると、その理解が片方から見ると得難いがためにうまくいかないケースが少なくない。
ましてや両親の老後や、子育てなどが絡めばより複雑になり、迫られる選択の機会も増えるだろう。そういう時に、これが一番大事だよねということを言語化しておくコトは、逆説的に家族の変化対応力を奪うこともあるのかもしれない。考え方をシェアしておいて、選択の機会や家族の在り方の拠り所にするコトが、変化に対応するということなのだ。
更に言えば、“Responsibility”という言葉が言い得て妙だと僕は思う。互いにフラットな責任を持つからこそ、相手だけに何かを求めない(ようにしようとする)し、Equalの認識に違いが出たとしてもそれを会話して互いに理解し合うコトが前提となっている。Andrewのストーリーは、”日本の正社員共働き家族”にとって、一つの兆しを見せてくれているのかもしれない。
Kuni